#01 赤本とおじちゃんとジーンズ



僕のジーンズとの出会いは世紀末は1999年の春のことであった。
高校の入学式に着るチノパンを買うため、とあるお店に入ったのだ。
そのお店の中はジーンズでいっぱい。
そこはジーンズ専門店であった。

その頃までジーンズに対する興味などまったくなかった僕は、
特にお店のジーンズに気を止めることもなかった。
なんたってリーバイスもリーもエドウィンもビッグジョンも何も分からず、
ジーンズはどれも同じもののように見えていた。

だからジーンズショップでジーンズには目もくれず、
目当てのチノパンを見つけたらすぐにレジへ持って行った。
ここで店員のおじちゃんに声をかけられた。
70歳くらいの老齢のおじちゃん店員だったがお洒落でミーハーなおじちゃんに見えた。
恰幅が良くて優しい笑顔が印象的なおじちゃんオーナー。
「こんどはジーパンも買いに来てな」
そういうとチノパンと一緒に一冊の小さな冊子を袋に入れてくれた。
それがリーバイスブックVol.25。
「はぁ、ジーパンですか」
そう言って店をあとにした。

今思えばこのおじちゃん、えらい商売上手だったなとしみじみ思う。
このおじちゃんが僕をジーンズの世界に招き入れた張本人だからだ。
でも僕がジーンズに肩入れしだすのはもうちょっと後のこと、
この日は家に帰って貰って来たリーバイスブックを何気なしに読んでいた。
別にジーンズに興味もないし、しかもリーバイスという特定のメーカーに
何の思いもない。ただのいちジーンズメーカー。ただそれだけ。
だけどせっかくくれたものだし。
そんな軽い気持ちでパラパラとページをめくって読み続けた。



小冊子を読み終わる頃には僕はリーバイスとは何ぞや、
ジーンズとは何ぞやを大方理解するに至っていた。
リーバイストラウスによる頑丈なパンツの発明、そして発展、
年代を経るごとに変わっていったディテール。しかし変わらぬ伝統とスタイル。
ジーンズが100年以上も当時のからの姿をほとんど残し
今でもファッションの定番であり続けていることに僕は感心してしまった。
そしてジーンズに完全にハマってしまったのだった。
「ジーンズってスゴイ!カッコイイ!ジーンズを穿きたい!!」



それから幾日かしてまたあのお店へ行った。
ニコニコした顔で出迎えてくれたあのおじちゃん。
僕が「何か501でお勧めのジーンズはある?」と聞くと、
「今はこれが大人気だよ」と教えてくれた。
501XX55年モデル(米国製)だった。
あ、これはリーバイスブックに書いてあった復刻版のジーンズだな。
「でもちょっと高いんだよなぁコレ」と僕。
おじちゃんは「でもすごくいいジーンズなんだよ。実は僕が今穿いてるのが
55年モデルなんだ。洗って縮めて自分の体にフィットさせるんだ。」
おじちゃんの話を聞いていると何だか面白そうになってきて、
負け無しの小遣いを叩いて55年モデル購入してしまった。
こうして初めてのジーンズは復刻の501XX55年モデルとなったのだった。

ばりばりで硬く、黒い色をしたリジッドのジーンズ。
これがホントにいつもの青いジーンズになるの?と半信半疑の僕。
家に着いたら早速ジーンズを風呂桶に浸けて糊をふやかした。
すると風呂の水が真っ青に!そして濡れたジーンズを今度は洗濯機に入れて
すすぎ洗い。またしても洗濯水は真っ青だ。僕の手も真っ青。
黒く見えたけど、やっぱり青いんだなこれ。
洗濯が完了したらくしゃくしゃのジーンズをぴんと伸ばして外に干した。
乾くまでが本当に待ち遠しかった。

翌日乾いたジーンズを取り込んで、すぐさま穿いてみた。
洗濯する前はあんなに硬くて黒くて大きかったジーンズが
柔らかく、青く、ピッタリの大きさに変身してるじゃないか!感動・・・。
でもちょっとゴワついてるし足が動かし難いかなぁと思っていたが、
一日穿いていると穿き皺がついてよく伸ばす部分は伸び、
まさに自分の体にフィットしたジーンズに。
「これがジーンズってものなのか、面白いもんだ。」
これ以来僕はジーンズの魅力の虜になってしまったのだった。



それから何本のジーンズを買ったことか自分でもわからない。
お店に行ってはジーンズを眺め、いつものおじちゃんといろいろと話したものだ。
それから数年後、久々にお店に行くと店員が若い女性に変わっていた。
この人は前からお店にいたけど、1人でお店にいることはなかった。
いつもあのおじちゃんとセットだったのだ。
「あれ、おじちゃんは?」
「実はおじいちゃん亡くなったのよ。」

おじちゃんは死んでしまった。
でもおじちゃんの功績は大きい。僕にジーンズの面白さを伝えたのだから。
今でも新しいジーンズをおろすときは、お店のおじちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。
そして「赤本」ことリーバイスブックvol25は、僕にとってバイブルのような宝物になっている。
初稿 : 2005年12月23日
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